植物生理学(長谷研究室)



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  植物環境感覚研究のための新技術開発
 植物には様々な環境の変化を感じとり、それに適切に応答する能力がある。光応答を始めとするそのような応答の仕組みについて、様々な研究が行われてきた。我々は、ここでさらに新しい研究分野を切り拓ためには、新しい技術が不可欠と考え、新学術領域研究「植物環境感覚」の一環として、植物分野外の研究者と協力することにより、環境応答研究のための新新技術の開発を進めている。以下にその概要を記す。

 * フェムト秒レーザーによる顕微手術
 * 質量顕微鏡の開発と光応答研究への応用
 * 一細胞遺伝子発現計測
 * IR-LEGOによる単一細胞遺伝子発現誘導

 
  フェムト秒レーザーによる顕微手術
    

  植物生理学の分野におけるレーザー技術の応用としては、共焦点レーザー顕微鏡が挙げらる。しかしながら、レーザー加工の植物分野への応用はまだ少ない。我々は、フェムト秒レーザーを用いた物理学的、生物物理学的研究の第一人者である、奈良先端大・細川陽一郎准教授と共同で、フェムト秒レーザーやその周辺技術の植物研究への応用を模索している。

  フェムト秒レーザーでは、レーザーの出力を同期させることで、フェムト秒という非常に短い時間間隔に光を集中させることができる。このようなパルス光をレンズで集光すると、極度に光子がの密度が高い状態が作り出され、いわゆる多光子吸収という現象が起こる(詳しくは細川先生のホームページ参照)。このようにして吸収された光エネルギーは、一種の爆発現象を集光点で引き起こす。工業分野や医学分野では、この性質を利用したレーザー加工が広く行われている。

  そこで我々は、フェムト秒による植物組織の破壊を試みた。その結果、背の高さが5 mm程度のシロイヌナズナの芽生えにおいて、子葉の葉柄の中心にきれいに穴を開けることができるようになった。なお、フェムト秒レーザーによる組織破砕は、他のレーザーによる処理に比べ熱が発生しにくいため、周囲の組織への影響が少ないと言われる。実際我々は、このような加工をほどこした芽生えで、処理後約24時間に渡り正常な成長をすることを確認した。

 

  次に、さらに高倍率のレンズを利用して、植物細胞の特定の部位にレーザー照射を行った。この時、レーザーの強度をうまく調節することで、細胞を殺すことなく、興味深い応答を引き起こせることが分かった。、他の研究グループが針などで細胞の一部を刺激した時に起こる応答について報告しているように、(Hardham et al., BMC Plant Biol. 2008, 8:64-)、細胞の一部にレーザーの刺激が加えられると、照射点に細胞質が集合する現象が見られた。また、細川グループでは、同様の刺激により細胞外に添加した高分子が細胞内に取り込まれることを観察している。このような処理により、植物細胞に遺伝子導入ができないかどうか、詳しい条件を現在検討している。

 

  以上のように、フェムト秒レーザーが多光子吸収により作り出す衝撃波を利用することで、植物細胞や組織を生きたまま加工できることが分かった。細川グループでは、さらにこの衝撃波を利用して、植物組織内の張力を見積もったり、硬さを測定できないかどうか検討しており、今後の展開が大いに期待される。

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  質量顕微鏡の開発と光応答研究への応用
      

  質量分析法の一つにMALDI法がある。MALDIとはMatrix Assisted Laser Desorption / Ionizationの略で、レーザー光の吸収と、それによるイオン化を助けるMatrixと呼ばれる物質を塗布した試料を用意し、そこから質量分析を行うものである。産総研・高橋勝利博士の研究室では、これにFT質量分析を組み合わせた方法で、いわゆるimaging質量分析(質量顕微鏡とも呼ばれる)を行うための装置を開発している。

 

  我々は、高橋博士らと共同で、シロイヌナズナの芽生えを材料に、光処理による代謝物の分布変化を網羅的に検出する目的で、解析を進めてきた。その結果、凍結乾燥後にガラスに貼り付けた植物試料に対して、20μm間隔でレーザー光照射によるイオン化を行い、これを順次FT質量分析器で分析することにより、多数の代謝物ピークについて、その分布を求めることに成功した。

  

  これらの中から興味深いものを探索したところ、貯蔵脂質やグルコース、ショ糖などの量が、フィトクロムが媒介する応答によって、芽生えの特定の部位で大きく減少することが示唆された。現在、この結果を確認すべく、別の方法による定量を進めている。

  本法の重要な特徴は、代謝物を網羅的に調べられるということである。考えらえる応用範囲は非常に広い。植物では、様々な物質が、環境要因や成長段階を経ることでその分布を変化させていると予想されるが、具体的にそれを調べる方法は非常に限られていた。この方法を広く利用することで、様々な未知応答が見つかることが期待される。

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  一細胞遺伝子発現計測
    

  植物の遺伝子発現応答においては、植物体の各部位で異なる応答が生じている可能性が高いが、微細部位における遺伝子発現を精度よく調べる方法が無かった。そこで我々は、動物細胞で、わずか一細胞からRNAを抽出し複数の遺伝子の発現量を正確に求めることに成功した日立製作所・神原秀記フェローらと共同で、植物の微細組織片からRNAを抽出し、遺伝子発現量を求める方法の開発に着手した。

 

  我々はまず実験条件を細かく検討し、シロイヌナズナ芽生えから切り出した1片の組織片からRNAを抽出し、忠実度が高いcDNAライブラリーを調整することに成功した。さらに、このようにして得た試料について、繰り返し定量PCRを行うことで、複数の芽生え全体を使った従来の実験から知られていた光応答遺伝子が確かに光応答していることを確認した。

  さらに、胚軸を長軸にそって8つに切り分け、光に対する複数の遺伝子の発現応答パターンを個体毎に比較したところ、遺伝子毎に独立したパターンを示すことが分かった。この結果は、既知のシグナル伝達経路だけでは説明できない興味深い結果であり、今後、このような差を生じさせるメカニズムを明らかにしてゆく必要がある。

 

  現在、同方法によって調整したcDNAライブラリーをできるだけバイアスがかからないよう増幅し、RNA-seq法による網羅的な解析を行う手法の開発を進めている。

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  IR-LEGOによる単一細胞遺伝子発現誘導
  IR-LEGO法とは、基礎生物学研究所・亀井保博特任准教授が開発した方法で、赤外線レーザーを用いて、顕微鏡下で特定の細胞を温めることにより、ヒートショックプロモターの下流に繋いだ遺伝子の発現を誘導する方法である(詳しくは亀井先生のホームページ参照)。さらに、亀井博士と同研究所の浦和博子博士らは、この方法をシロイヌナズナの根に応用することに成功した。

  そこで我々は、亀井特任准教授、浦和博士(現・岐阜聖徳大学)らと共同で、シロイヌナズナ芽生えの胚軸において、同方法を用いてフォトトロピンの発現を単一細胞レベルで誘導する実験を試みた。現在のところ、数細胞で発現を誘導することに成功しているが、それが細胞伸長に影響するかどうかについてはまだ不明である。

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